2026年(令和8年)10月1日から、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が、企業規模を問わずすべての事業主の義務になります。ここで最初に押さえるべきは、「就活ハラスメント」と呼ばれるもののうち、義務化されるのはセクハラだけという点です。圧迫面接やオワハラは今回の義務の対象外です。そして見落とされやすいのが、既存のセクハラ対策には存在しない新しい措置項目が加わっていること。トラブル事例を交えて解説します。
1. 何が義務になり、何が義務にならないのか?
義務になるのはセクハラ型のみ。パワハラ型は「望ましい取組」にとどまります。
根拠は、令和7年6月11日公布の労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)です。これにより男女雇用機会均等法第13条に求職者等に関する規定が置かれ、令和8年2月26日には「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)が告示されました。
| 類型 | 2026年10月1日以降の位置づけ |
|---|---|
| 求職者等へのセクハラ | 措置義務(全事業主。猶予なし) |
| 求職者等へのパワハラに類する行為(圧迫面接等) | 指針6で「望ましい取組」 |
| 求職者等への妊娠・出産等ハラスメントに類する行為 | 同上 |
| 求職者等へのカスハラに類する相談への対応 | 同上 |
なお、同じ日にカスタマーハラスメント対策も義務化されます。法改正としては一体のものですので、カスハラ対応の準備と並行して進めるのが効率的です。
2. どこまでが「求職活動等」に含まれるのか?
採用面接だけではありません。実習やOB訪問、SNSでのやり取りも対象です。
指針は「求職活動等」の例として、企業の採用面接への参加、就職説明会への参加、企業の雇用する労働者への訪問、インターンシップへの参加、教育実習・看護実習等の実習の受講を挙げています。さらに、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれ、労働者が通常就業している場所で行われるものに限らないと明記されています。
行為者となる「労働者」には、正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員も含まれます。派遣労働者については、労働者派遣法第47条の2により派遣先も事業主とみなされるため、派遣先企業も自社の労働者と同様に措置を講じる必要があります。
また、同性に対するものも対象であり、被害を受けた方の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず適用されます。
3. 企業が講じなければならない措置は?
既存のセクハラ対策4本柱に加え、就活特有の新項目が1つあります。
方針の明確化と周知・啓発——求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する。あわせて、行為者を厳正に対処する旨の方針と対処内容を就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定する
【新設】求職活動等に関するルールの明確化と周知——指針は例として、面談時間および場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定その他の規則を定め、労働者に研修等で周知すること、そして求職者等に対しても留意事項をホームページやパンフレット等で周知することを挙げています
相談体制の整備——相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知する。指針は「求職者等は人事担当者への相談をためらうことも想定される」として、人事担当者以外を担当者に指定することも考えられるとしています
事後の迅速かつ適切な対応——事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止。事実が確認できなかった場合も再発防止措置は必要です
併せて講ずべき措置——プライバシー保護と、協力した労働者への不利益取扱いの禁止
このうち2番目が、社内向けセクハラ対策には存在しなかった項目です。求職者に向けて外部発信することまでが義務の内容に含まれている点が、実務上の最大の変更点といえます。
4. 社労士と経営者の会話
経営者「10月の義務化の件ですが、うちはセクハラ規程がありますし、相談窓口も設置済みです。特に追加でやることはないですよね」
社労士「2つ抜けている可能性があります。まず、相談窓口は求職者に周知されていますか」
経営者「社内のイントラには載せています。学生さんは……見られませんね」
社労士「そこが義務の一部です。指針は、パンフレットやホームページ等で求職者等に周知することを求めています。採用サイトに1行載せるだけでも形は整います」
経営者「もう1つは何でしょう」
社労士「面談のルールです。時間・場所・実施体制、それにやり取りに使うSNSの種類まで、あらかじめ決めて周知することが挙げられています」
経営者「SNSですか。うちは若手社員がOB訪問の連絡に個人のLINEを使っているかもしれません」
社労士「実際、相談として多いのがその形です。個人アカウントでのやり取りは記録が会社に残らず、夜間の連絡や私的な食事の誘いに発展しても、会社は把握できません。指針が労働者への訪問を求職活動等の例に挙げているのは、まさにこの場面を想定しています」
経営者「実際にトラブルになった場合、どこまで会社の責任になりますか」
社労士「指針は、面接中に性的な事実に関する質問をして求職活動の意欲が低下したケース、インターンシップ中に執拗に私的な食事に誘ったケースなどを典型例として挙げています。措置を講じていなければ、労働局の助言・指導・勧告の対象になりますし、勧告に従わない場合は企業名公表の可能性もあります」
経営者「面接で『彼氏はいるの』と聞くのは、アイスブレイクのつもりでも……」
社労士「指針が挙げる典型例そのものです。面接官が固定されていない会社ほどリスクが高いので、質問してはいけない事項のリストを面接官に配ることから始めるのが現実的です」
経営者「圧迫面接のほうは、義務ではないという理解でよいですか」
社労士「義務ではありませんが、指針は方針を明確化する際にパワハラに類する行為等についても同様の方針を併せて示すことが望ましいとしています。どうせ規程を直すなら、まとめて書いておくほうが手間は少ないです」
5. 10月1日までに何をすべきか
優先順位をつけるなら、次の4つです。
就業規則・ハラスメント防止規程の改定——求職者等セクハラを禁止する旨と、懲戒規定の適用対象である旨を明記する。既存の懲戒規定を適用対象とする明確化でも足ります
採用サイト等への掲載——相談窓口と、面談に関する留意事項を求職者向けに公開する
面談ルールの策定——面談の時間帯・場所・複数名対応の原則・連絡手段(会社アカウントに限定するか)を決める
面接官・OB訪問対応者への研修——質問禁止事項と、個人SNSでの連絡を避けるルールを共有する
指針は望ましい取組として、大学等の教育機関が設置する相談窓口から情報提供があった場合に連携して対応することも挙げています。新卒採用を行う企業は、大学のキャリアセンター経由で相談が来る前提で窓口の連絡先を整理しておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 中小企業に猶予期間はありますか。 A. ありません。2026年10月1日から全事業主が対象です。
Q. 新卒採用をしていなければ関係ありませんか。 A. 中途採用の応募者も求職者に含まれます。また、教育実習・看護実習の受入れも「求職活動等」に含まれるため、実習生を受け入れる事業所は対象です。
Q. 派遣スタッフが求職者にセクハラをした場合、派遣先の責任はどうなりますか。 A. 労働者派遣法第47条の2により、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、措置義務を負います。
Q. 就業規則を変更せず、別規程で対応してもよいですか。 A. 指針は「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書」と規定しており、別規程でも差し支えありません。ただし懲戒との接続を明確にするため、就業規則から委任する形が安全です。
まとめ
今回の義務化の核心は、社内に向けた対策を、社外の求職者に向けても開くという点にあります。相談窓口の周知も、面談ルールの公開も、既存のセクハラ対策には存在しなかった発想です。就業規則の記載と採用サイトの表示、そして面接官への周知——この3点がそろっているか、10月1日までに一度ご確認ください。規程の改定が必要かどうか判断に迷う場合は、社会保険労務士にご相談ください。
出典・参考資料(一次資料)
| 資料名 | 発行元 | URL |
|---|---|---|
| 事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号) | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/content/001662627.pdf |
| 職場におけるハラスメントの防止のために(改正法・指針・Q&A掲載ページ) | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html |
| 求職活動等をする方を守るために ― 求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の新ルール(Webマガジン) | 厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/web_magazine/series/20260901.html |
| 改正労働施策総合推進法等特設ページ | 厚生労働省「あかるい職場応援団」 | https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/law-amendment/ |
※根拠法令は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第13条、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の2です。



