「法改正に対応したから安心」ではない?
「先生、就業規則は去年、法改正に合わせて変更しました。しばらく大丈夫ですよね?」
経営者から、このような質問を受けることがあります。
もちろん、法改正への対応は就業規則見直しの基本です。
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場について、就業規則の作成・届出が義務付けられています。また、就業規則を変更した場合も届出が必要です。厚生労働省の「モデル就業規則」も2025年12月に改訂されています。
しかし、2026年の就業規則の見直しでは、法的義務だけでなく、
「実際に会社で起こりそうなトラブルに対応できる規則になっているか?」
という視点も重要です。
そこで今回は、法改正対応に加えて、2026年に企業が検討しておきたい7つのポイントを紹介します。
① メンタル不調者の「休職・復職ルール」
近年、就業規則を見直す際に特に重要なのが、メンタル不調による休職・復職のルールです。
例えば、
休職期間をどのくらいにするか
休職開始時に診断書を提出させるか
休職中の会社との連絡方法
復職時に診断書を提出させるか
復職可能かどうかを誰が判断するか
復職後に短時間勤務等を認めるか
復職後に再び休職した場合、休職期間をどう扱うか
などです。
厚生労働省も「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表し、休業開始から復職後までの支援について整理しています。
特に注意したいのは、
「休職期間満了=自動的に退職」
という規定だけを置いて、実際の復職判断の手順が決まっていないケースです。
就業規則だけでなく、診断書、復職判定、試し出勤、復職後のフォローまで含めてルールを整理しておくとよいでしょう。
② 退職代行への「事後対応」を決めておく
近年、企業から相談されることが増えたのが退職代行です。
「退職代行から連絡が来たら、どう対応すればいいですか?」
という相談です。
ここで重要なのは、就業規則で「退職代行を禁止する」ことではありません。
むしろ、
退職の申出方法
退職時の引継ぎ
貸与物の返却
退職時の秘密保持
有給休暇の取扱い
会社から本人への連絡方法
などを明確にしておくことが重要です。
なお、期間の定めのない雇用契約では、民法上、原則として労働者は退職の申入れから2週間を経過することによって退職できるとされています。
したがって、
「就業規則に1か月前と書いてあるから、1か月間は絶対に退職できない」
と単純に考えるのは適切ではありません。
退職を阻止する規則ではなく、退職時の手続きを明確にする規則として整備することがポイントです。
③ 在宅ワークの「なんとなく運用」をやめる
在宅勤務を導入している会社でも、
「特にルールを作らず、必要なときに在宅勤務を認めています」
というケースがあります。
しかし、在宅勤務を継続的に行うのであれば、
在宅勤務を認める条件
勤務場所
出社命令
労働時間の管理
情報セキュリティ
通信費・光熱費等の負担
在宅勤務中の連絡方法
などを明確にしておくことが望ましいでしょう。
厚生労働省も、テレワークを円滑に実施するため、労使で協議したテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に周知することが望ましいとしています。
参考:厚生労働省「テレワーク総合ポータルサイト」
在宅勤務と就業規則に関する厚生労働省Q&A
④ SNS・動画投稿はどこまで認める?
TikTok、Instagram、YouTubeなど、従業員が動画や写真をSNSに投稿することが珍しくなくなりました。
そこで問題になるのが、
「社員が職場で撮影した動画をSNSに投稿したら、会社はどうする?」
という問題です。
例えば、
制服姿で勤務先を撮影
店舗・事務所内部を撮影
顧客を撮影
同僚を無断撮影
会社の内部情報を投稿
業務上知った秘密を投稿
などです。
単純に「SNS禁止」とするより、
「会社の秘密情報、顧客情報、個人情報、肖像等を会社の許可なく公開してはならない」
など、具体的な禁止事項を定めるほうが実務上は使いやすいでしょう。
⑤ 2026年は「生成AIの利用ルール」も検討
ChatGPTなどの生成AIを業務で利用する企業も増えています。
しかし、
「社員がChatGPTに会社の資料を入力していた」
ということになれば、情報管理上の問題が発生する可能性があります。
特に、
従業員情報
顧客情報
給与情報
健康情報
人事評価
契約書
未公開の経営情報
などをどのように扱うかは、会社としてルールを決めておきたいところです。
個人情報保護委員会も、生成AIサービスへの個人情報の入力について注意喚起を行っています。
参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
個人情報保護委員会の注意喚起
なお、AIについては就業規則に細かな内容をすべて盛り込む必要はありません。
「生成AI利用ガイドライン」などの別規程を作り、就業規則と組み合わせる方法も有効です。
⑥ 休日のチャット・メール連絡を制限する
Chatwork、Slack、Teamsなどのチャットツールによって、以前より簡単に従業員へ連絡できるようになりました。
便利になった一方で、
「休日なのに上司からメッセージが来る」
「返信しないといけない気がする」
という問題も起こります。
そこで、
「休日・勤務時間外の連絡は原則として行わない」
「緊急の場合を除き、次の勤務日に確認する」
などのルールを検討することをおすすめします。
ポイントは、連絡すること自体を全面禁止するのではなく、返信や対応を義務化しないことです。
これにより、勤務時間と私生活の境界を明確にできます。
⑦ 副業・兼業ルールを見直す
「副業OK」という会社も増えています。
しかし、
副業OK=何をしてもOK
ではありません。
例えば、
届出制か許可制か
競業となる副業をどうするか
企業秘密の漏えい
会社の信用を損なう副業
本業への支障
労働時間の管理
などを整理する必要があります。
厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しており、2025年3月にもパンフレットを改定しています。
また、厚生労働省のモデル就業規則では、副業・兼業について、労務提供への支障、秘密漏えい、信用毀損、競業などの場合に禁止・制限できる規定例が示されています。
参考:厚生労働省「副業・兼業」
厚生労働省「副業・兼業」
社労士と経営者の会話|「就業規則は法律のコピーではありません」
経営者:
「先生、就業規則は法改正のところだけ直せばいいんですよね?」
社労士:
「もちろん法改正への対応は必要です。ただ、それだけでは十分ではありません。」
経営者:
「他に何を見ればいいんですか?」
社労士:
「例えば、最近退職代行を使って退職する社員が出たらどうしますか?」
経営者:
「……確かに、そこまで考えていませんでした。」
社労士:
「在宅勤務、SNS、生成AI、副業、休日のチャットも同じです。」
経営者:
「なるほど。法律に書いてあることだけではなく、実際に会社で起こる問題を想定するんですね。」
社労士:
「その通りです。就業規則は、法律のコピーではなく、会社のルールブックですから。」
【社労士の実体験】問題が起きてからでは「規定がない」
社労士の実体験として
実際に企業の就業規則を確認していると、
「制度としては運用しているのに、就業規則には何も書かれていない」
というケースがあります。
例えば、在宅勤務を認めているのに勤務場所や費用負担のルールがなかったり、副業を認めているのに届出方法が決まっていなかったりします。
問題が起きてから、
「これって会社としてどう対応するんですか?」
となると、経営者も従業員も困ってしまいます。
だからこそ、トラブルが起きる前に「会社としてどうするのか」を決めておくことが重要です。
まとめ|2026年の就業規則は「法改正+働き方」で見直す
就業規則の見直しというと、「法改正があったから修正する」というイメージがあります。
しかし、2026年の就業規則に必要なのは、それだけではありません。
今回紹介した7項目を整理すると、
| 見直しポイント | 検討する内容 |
|---|---|
| メンタル不調 | 休職・復職・再休職 |
| 退職代行 | 退職手続・引継ぎ・貸与物 |
| 在宅ワーク | 勤務場所・費用・労働時間 |
| SNS・動画 | 情報漏えい・撮影・投稿 |
| 生成AI | 入力情報・利用方法 |
| 休日の連絡 | 連絡・返信のルール |
| 副業 | 届出・競業・秘密保持 |
「法律に違反していないか」だけではなく、「今の会社の実態に合っているか」まで確認する。
これが、2026年の就業規則見直しで重要な視点です。



