試用期間で解雇することは難しい!?雇用契約書に記載すべき事項と本採用拒否の注意点を社労士が解説

試用期間で解雇することは難しい!?雇用契約書に記載すべき事項と本採用拒否の注意点を社労士が解説

労務
社会保険労務士法人WILL 山本達矢更新

「試用期間だから辞めてもらえる」は誤解です。試用期間中でも解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要。会社が解決金を払うことになった実例と、契約書に書くべき4項目を社労士が解説します。

「試用期間中だから、合わなければ辞めてもらえる」——この認識は危険です。結論から言えば、試用期間中の解雇は通常の解雇より「広く」認められますが、「自由」ではありません。最高裁は試用期間中の労働契約を解約権留保付の労働契約と位置づけており、本採用拒否には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。そして実務上の落とし穴は、契約書に「試用期間3か月」としか書いていない会社が圧倒的に多いことにあります。今回は、会社が解決金を支払うことになった実例とともに、契約書に記載すべき事項を解説します。

1. 試用期間中なら、本当に解雇しやすいのか?

法的には「やや広く認められる」だけで、自由ではありません。

最高裁は三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)で、通常の試用期間中の契約関係について、解約権が留保された労働契約がすでに成立していると判示しました。つまり試用期間中であっても、労働契約は成立しているのです。

厚生労働省の個別労働関係紛争のあっせん事例集は、この点を次のように整理しています。

  • 試用期間中の解約権は、通常の解雇より広く認められる

  • ただし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要がある

  • 採用時には知ることができなかった事実が試用期間中に判明し、引き続き雇用するのが適当でないと客観的に判断できる場合に、本採用拒否は相当とされる

ここで重要なのは3つ目です。採用時に分かっていたことを理由にはできません。「経験が少ないと思っていたが、やはり未熟だった」では通りません。

2. 見落とされがちな「14日の壁」

入社15日目以降は、解雇予告の手続きが必要になります。

労働基準法第21条により、試用期間中の労働者は解雇予告の適用除外とされていますが、これは入社後14日以内に限られます。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)第6条第3項も、「試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については(解雇予告の)手続によって行う」としています。

時期解雇予告解雇の有効性
入社後14日以内不要(労基法21条)客観的合理性・相当性は必要
入社15日目以降必要(30日前の予告または予告手当)客観的合理性・相当性が必要

つまり14日を過ぎれば、手続きは通常の解雇と変わりません。「試用期間だから」という理由で手続きが省略できるわけではないのです。

3. 被害事例——会社が解決金を支払うことになったケース

指導の記録がないと、会社の主張は通りません。

厚生労働省の前掲あっせん事例集には、次の実例が収録されています。

【事例】電子部品製造業(従業員145人)の本採用拒否

一般事務員として採用された従業員が、3か月の試用期間満了直前に本採用を拒否されました。会社の理由は「適性欠如と勤務態度不良」。しかし本人は納得せず、本採用を求めてあっせんを申請しました。

あっせん員の判断は、会社にとって厳しいものでした。

上司による試用期間中の指導に不十分な点があり、解雇理由は判例に照らして合理性を欠くと判断される可能性がある

結果として、会社は本採用は難しいとして金銭解決を希望し、解決金を支払って解雇という形で決着しました。

注目すべきは、会社が「本人の勤務成績から本採用は難しい」と判断していた点です。実態としては適性に問題があったとしても、指導の記録が残っていなければ、会社は争えません。

【裁判例】テーダブルジェー事件(東京地判平成13年2月27日)

同事例集が挙げる無効例です。会長に大きな声で挨拶しなかったことを理由とする解雇について、社会通念上の相当性を欠くとして無効と判断されました。「社風に合わない」という漠然とした理由が通らないことを示す例です。

一方で、有効とされた裁判例もあります。日本基礎技術事件(大阪高判平成24年2月10日)では、新卒採用の技術社員が研修期間中に安全上の規則違反を繰り返し、改善の見込みが乏しいと判断されたことに相当の理由があるとされました。キングスオート事件(東京地判平成27年10月9日)やヤマダコーポレーション事件(東京地判令和元年9月18日)でも、管理職として中途採用された社員の適格性について、具体的な業務支障の事実が認定されています。

有効例と無効例を分けているのは、**「具体的な事実が記録されているか」と「改善の機会を与えたか」**です。

4. 雇用契約書・就業規則に記載すべき4項目

「試用期間3か月」だけでは、留保解約権の前提が整いません。

記載事項危ない書き方推奨する記載例
① 期間と延長の可能性試用期間:3か月試用期間は採用日から3か月とする。会社が必要と認めたときは、3か月を限度に延長することがある
② 本採用拒否の事由(記載なし)会社は、試用期間中または満了時に、勤務成績、勤務態度、能力、健康状態、経歴の真実性、必要な協調性等により本採用が適当でないと認めたときは、本採用を行わないことがある
③ 評価の対象と方法(記載なし)試用期間中は、所定の評価項目に基づき、期間中に面談を実施して評価を行う
④ 試用期間中の労働条件(記載なし)試用期間中の賃金は月額◯円とし、本採用後は月額◯円とする(差を設ける場合)

②がとくに重要です。何を見て判断するのかを事前に示しておくことが、留保解約権を行使する際の根拠になります。あわせて、就業規則にも同内容を規定し、整合させてください。

なお、試用期間の長さは労働基準法に定めがありません。モデル就業規則の解説も、長すぎる期間は労働者の地位を不安定にするため好ましくないとしています。実務上は3か月〜6か月が一般的で、1年を超える設定は無効と判断されるリスクがあります。

5. 社労士と経営者の会話

経営者「先月入社した事務の方ですが、どうも仕事が遅く、ミスも目立ちます。試用期間は3か月なので、満了時に本採用を見送りたいのですが」

社労士「3点確認させてください。まず、ミスの内容と日付が記録として残っていますか」

経営者「残っていません。現場からは『また間違えた』と聞いていますが」

社労士「2点目です。本人に改善を求めたことはありますか。口頭でも構いません」

経営者「上司が注意はしているようですが、面談のような形ではないですね」

社労士「3点目。雇用契約書に、本採用をしない場合の事由は書いてありますか」

経営者「『試用期間3か月』とだけです」

社労士「その状態では、本採用拒否は厳しいです。厚労省のあっせん事例集にも、上司の指導が不十分だったために解雇理由の合理性を欠くとされ、会社が解決金を払った例が載っています」

経営者「しかし実際に仕事ができていないのです。それでも駄目なのですか」

社労士「実態の問題ではなく、立証の問題です。会社が『できていない』と言い、本人が『できている』と言えば、記録のある側が勝ちます。まだ試用期間は残っていますね」

経営者「あと1か月あります」

社労士「では今からできることが3つあります。①ミスの内容・日付・影響を記録に残す、②改善すべき点を書面で伝えて面談を行う、③改善状況を期間満了前にもう一度確認する。これだけで会社の立場は大きく変わります」

経営者「1か月で判断がつかなければ、試用期間を延ばせますか」

社労士「契約書と就業規則に延長の根拠があれば可能です。ただし御社の契約書には書かれていませんので、本人の個別同意が必要になります。延長する場合は『改善が見られれば本採用する』という前提ですから、評価項目を明示したうえで同意を取ってください」

経営者「次の採用からは、契約書を直しておきます」

社労士「それが最善です。本採用拒否は入社時の契約書で勝負が決まります。揉めてから直しても間に合いません」

6. 本採用拒否を適法に行う4ステップ

  1. 記録する——いつ、何が起き、どう業務に支障が出たかを具体的に記録します。「協調性がない」ではなく「◯月◯日、△△の指示に従わず、取引先への納品が1日遅延」という粒度です

  2. 改善を求める——指摘事項を書面で伝え、改善期限を示します。この書面が「改善の機会を与えた」証拠になります

  3. 面談し、記録を残す——改善状況を本人と確認します。本人の言い分も記録してください

  4. 期間満了前に判断・通知する——満了日を過ぎてから通知すると、本採用されたものとして扱われるおそれがあります。15日目以降は30日前の解雇予告または予告手当が必要です

よくある質問(FAQ)

Q. 試用期間中は14日以内なら自由に解雇できますか。 A. 解雇予告が不要になるだけです(労働基準法第21条)。解雇自体の有効性には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法第16条)。

Q. 試用期間を延長することはできますか。 A. 雇用契約書または就業規則に延長の根拠があり、延長に合理的な理由がある場合に限られます。根拠がない場合は本人の個別同意が必要です。無制限な延長は認められません。

Q. 本採用を拒否する場合、理由を伝える必要がありますか。 A. 労働者から解雇理由証明書を請求された場合、交付義務があります(労働基準法第22条)。後から理由を追加するのは困難ですので、通知時点で理由を整理しておく必要があります。

Q. 試用期間満了で「契約終了」とすることはできますか。 A. できません。試用期間は期間の定めのない契約の一部ですので、満了による自動終了ではなく「解雇」として扱われます。有期雇用契約として設定した場合も、実質が試用期間であれば同様に判断される可能性があります(神戸弘陵学園事件・最三小判平成2年6月5日)。

まとめ

試用期間は「お試し期間」ではなく、解約権が留保された労働契約です。本採用を拒否できるかは、①契約書に判断事由を書いてあるか、②具体的な事実を記録しているか、③改善の機会を与えたか——この3点で決まります。実態として適性に欠けていても、記録がなければ会社は争えません。自社の雇用契約書と就業規則の試用期間規定が機能する内容になっているか、採用の前にご確認ください。判断に迷う場合は、社会保険労務士にご相談ください。

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