2026年度の最低賃金、まず確認したいこと
2026年度の地域別最低賃金は、全47都道府県で改定額が答申され、引上げ額は54~65円、全国加重平均は1,177円となりました。前年の1,121円から56円の引上げです。これは、厚生労働省が公表した2026年度の答申状況によるものです。
ただし、発効日は全国一律ではありません。2026年10月1日から12月2日までの間に、都道府県ごとに順次発効する予定とされています。
「10月改定だから、10月分の給与から直せばいい」と考えるのは危険です。見るべきなのは給与の支給日ではなく、勤務先の都道府県で決まった発効日です。大阪府では2026年10月1日から時間額1,231円に改定されています。ほかの都道府県についても、必ず各労働局の公表資料で金額と発効日を確認しましょう。
見落とし① 発効日が給与計算期間の途中にある
経営者:「うちは毎月末締め、翌月10日払いです。10月分の給与を11月10日に払うときに、新しい最低賃金にすれば大丈夫ですよね?」
社労士:「発効日を過ぎた労働については、その日から改定後の最低賃金以上を支払う必要があります。支給日が11月だから、11月からでよいという話ではありません」
たとえば大阪府で、9月16日~10月15日を給与計算期間としている場合、10月1日以降の労働には1,231円以上が必要です。
給与計算期間の途中で最低賃金が変わる場合、勤怠システムや給与ソフトの単価変更日が発効日に合っているか確認しましょう。月末締めの会社では、給与計算のタイミングと最低賃金の発効日を混同しないことが重要です。
見落とし② 月給なら大丈夫、とは限らない
最低賃金の確認は、月給制でも時間額に換算して行います。最低賃金の対象となる賃金を、1か月平均所定労働時間数で割って比較します。実際のその月の勤務時間や、残業代込みの総支給額で判断するわけではありません。
大阪労働局が示す例では、年間所定労働日数269日、1日7.5時間勤務、月給20万6,800円の場合、月平均所定労働時間は次のとおりです。
269日 × 7.5時間 ÷ 12か月 = 168.125時間
続いて、月給を時間額に換算します。
20万6,800円 ÷ 168.125時間 = 約1,230.03円
2026年10月1日以降の大阪府最低賃金は1,231円ですから、この例では最低賃金を下回ります。大阪労働局の計算例でも、最低賃金法違反となるケースとして示されています。
月給が20万円を超えていても、計算すると最低賃金違反になることがあるのです。
見落とし③ 手当を全部足して計算している
最低賃金の計算では、毎月の賃金を何でも合算できるわけではありません。
通勤手当、家族手当、精皆勤手当、時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与などは、原則として最低賃金との比較に使う賃金から除外します。
経営者:「基本給は最低賃金より少し低いですが、通勤手当も皆勤手当も付けています。合計すれば超えています」
社労士:「その計算では不十分です。対象外の手当を除いて、時間額に換算し直してください」
たとえば、基本給を所定労働時間で割ると最低賃金未満なのに、通勤手当や残業代を足した総支給額では超えている。このような計算では、最低賃金を満たしていることにはなりません。
固定残業代を設けている会社も同様です。固定残業代を含む総額だけで判断せず、固定残業代を除いた賃金で確認する必要があります。給与明細の総支給額だけを見て「大丈夫」と判断しないことが大切です。
見落とし④ パートだけ直して、ほかの賃金を放置する
最低賃金の引上げで確認が必要なのは、最低賃金に近い時給の従業員だけではありません。月給者、日給者、試用期間中の従業員も対象です。年齢や学生・パートといった雇用形態だけで対象外にはなりません。
また、派遣労働者には派遣先の最低賃金が適用されます。業種によっては、地域別最低賃金より高い特定最低賃金が設定されている場合もあるため、注意が必要です。
さらに、最低賃金ぎりぎりの従業員だけを引き上げると、少し経験を積んだ社員との賃金差が縮まり、不公平感につながることがあります。
全員の賃金を法律上同じ幅で引き上げる義務があるわけではありません。しかし、採用時の賃金や勤続年数、職務・責任に応じた賃金バランスは、合わせて点検したいところです。
改定日までに確認したい実務チェック
最低賃金改定時は、次の点をまとめて確認しましょう。
勤務地ごとの最低賃金額と発効日
時給・日給・月給それぞれの時間額換算
通勤手当、皆勤手当、割増賃金などの除外項目
給与ソフトや勤怠システムの単価設定
雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程、求人票の表示
最低賃金を下回る労働条件は、従業員が同意していても、その部分が無効となり、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされます。
改定後に気付いて慌てるよりも、給与計算を始める前に対象者を一覧にして点検する方が確実です。
最低賃金の引上げは、単価を直すだけの作業ではありません。賃金設計や採用条件を見直す機会として、早めに準備しておきましょう。
雇用契約の管理・効率化はe-muの活用も
最低賃金の引上げは、単価を直すだけの作業ではありません。賃金設計や採用条件を見直す機会として、早めに準備しておきましょう。また、最低賃金の改定に伴って雇用契約書や労働条件通知書の変更・再交付が必要になる場合は、契約書の作成から電子サイン、保管・管理までをクラウドで一元化できる雇用契約システム「e-mu(エミュー)」の活用も有効です。契約期間や労働条件を適切に管理できる仕組みを整えておくことで、改定時の事務負担を軽減し、変更漏れの防止にもつなげられます。
最低賃金の確認だけで終わらせず、雇用契約の管理方法も見直してみてはいかがでしょうか。



