『2026年、労基はココを見ている!!』労働基準監督署の調査と対応方法を社労士が解説

『2026年、労基はココを見ている!!』労働基準監督署の調査と対応方法を社労士が解説

労務
社会保険労務士法人WILL 山本達矢更新

労基署が見ているのは「書類が揃っているか」ではなく「書類どうしが合っているか」です。11月は過重労働解消キャンペーン。監督官が最初に見る3点と当日の対応を、立会い経験から社労士が解説します。

労働基準監督署の調査で、監督官が最初に求める書類はほぼ決まっています。そして結論から言えば、見られているのは「書類が揃っているか」ではなく「書類どうしが合っているか」です。令和7年度に長時間労働の疑いで監督指導を受けた事業場のうち、78.5%で労働基準関係法令違反が見つかっています。しかも11月は「過重労働解消キャンペーン」の期間で、重点監督が行われます。今回は、顧問先での立会い経験を交えて、2026年の監督官が見ているポイントと当日の対応を解説します。

1. 2026年に公表された数字——労基署はどれだけ動いているのか

違反が見つかる確率は、約8割です。

直近に公表された2つの監督指導結果を押さえてください。

① 長時間労働が疑われる事業場(令和8年9月15日公表)

厚生労働省の令和7年度の監督指導結果によれば、29,150事業場に監督指導が実施されました。

指摘内容事業場数割合
労働基準関係法令違反22,88278.5%
違法な時間外労働11,22838.5%
過重労働による健康障害防止措置が未実施5,91920.3%
賃金不払残業1,9016.5%
労働時間の把握が不適正4,04513.9%

② 賃金不払(令和8年8月21日公表)

令和7年の賃金不払に関する監督指導結果では、賃金不払事案は22,605件(前年比+251件)、対象労働者173,016人、金額は128億5,782万円。うち21,731件(96.1%)、109億9,703万円が監督指導によって支払われています。

③ 11月は過重労働解消キャンペーン(令和8年10月8日公表)

厚生労働省は11月を「過労死等防止啓発月間」とし、長時間労働が行われていると考えられる事業場に重点的な監督指導を実施するとしています。11月1日から7日は相談受付の集中期間、11月7日は特別電話相談日です。

つまり、来月が最も監督の動きが活発になる月です。

2. 2026年、労基署が見ている4つのポイント

令和8年度の運営方針から、重点が読み取れます。

厚生労働省が令和8年4月10日に策定した令和8年度地方労働行政運営方針、および令和8年度大阪労働局行政運営方針から、次の4点が重点とされています。

① 月80時間超の時間外・休日労働 監督対象の選定基準そのものです。大阪労働局の方針では、長時間労働が複数の事業場で認められた企業には指導と企業名の公表、違法かつ重大・悪質な過重労働事案には過重労働撲滅特別対策班(かとく)による捜査が明記されています。

② 労働時間の把握 令和7年度の結果で13.9%が指摘された項目です。管理監督者も労働時間の状況把握の対象であることを見落としている企業が非常に多いです。

③ 同一労働同一賃金 令和8年度の方針では、監督署の定期監督等で確認が実施されるとされています。2026年10月1日からパート・有期雇用労働者への明示事項も追加されましたので、労働条件通知書の様式も見られます。

④ フリーランスの労働者性 「労働者性に疑義がある方の労働基準法相談窓口」が設置され、申告を受けて労働者性を判断し、必要な指導が行われます。業務委託契約の実態が問われる場面です。

なお大阪労働局は、重点業種として医師・建設業・自動車運転者を挙げ、さらにスポットワークの労務管理上の留意事項についてもリーフレットで周知するとしています。

3. 【実体験】監督官が最初に見た3点と、たった1つの違和感

顧問先の定期監督に立ち会ったときのことです。

来所通知書を受けた顧問先から連絡をいただき、当日は社長・総務担当者・私の3名で臨みました。開始から10分、監督官が求めた書類は3点だけでした。

  1. 賃金台帳(直近3か月分)

  2. 出勤簿・タイムカード(同期間)

  3. 36協定(届出済みの控え)

ここまでは想定どおりです。顧問先も事前に準備していました。問題はその次でした。

監督官は賃金台帳とタイムカードを数枚見て、電卓を少し叩いて一言

『タイムカード上の残業時間と賃金台帳の残業時間が大きく合わないのは何故ですか?』

タイムカード上の残業時間はおおよそ20時間程度。一方賃金台帳で計上されている残業時間は12~13時間程度でした。

「残業申請書に基づいて計上しているので・・・」と総務担当者が回答したところ、監督官は「所定18時で19時過ぎに帰っているこの日は?」と鋭く指摘してきます。

その後も残業申請のない19時台の退勤打刻がいくつか見つかりました。「打刻してから片付けをしていた」「自主的に残っていた」という説明をしましたが通りません。

結果として、過去3か月分の賃金台帳とタイムカードを突合し、乖離分を労働時間として計算し直すことになりました。是正報告までに2か月を要しました。

この経験から申し上げたいのは1点です。監督官は「書類が揃っているか」を見ていません。「書類どうしが合っているか」を見ています。

ちなみにこのとき、監督官はもう1つ尋ねました。「施設長の勤怠記録はどこですか」。施設長は管理監督者として扱っていたため、記録がありませんでした。労働安全衛生法上、管理監督者も労働時間の状況把握の対象です。これも併せて指摘を受けました。

4. 社労士と経営者の会話

経営者「来所通知書が届きました。定期監督だそうです。うちは真面目にやっているので、特に準備は要りませんよね」

社労士「真面目にやっていても、8割の事業場で何らかの違反が見つかっています。準備は必要です。まず確認したいのですが、タイムカードの打刻時刻は、全員ほぼ同じ時刻で揃っていませんか」

経営者「言われてみれば、だいたい定時で押していますね。残業する者は申請を出しています」

社労士「そこが最初に見られます。揃いすぎている出勤簿は、かえって疑われます。入退館記録やPCのシャットダウン時刻と照らして、乖離がないか先に確認しておきましょう」

経営者「乖離があったら、どうすれば」

社労士「調査の前に自主的に把握して、是正に着手しておくことです。監督官に指摘されてから動くのと、こちらから『この点は把握しており、既に是正中です』と説明できるのとでは、受ける指導の重さが変わります」

経営者「36協定は毎年出しています。これは大丈夫でしょう」

社労士「起算日と有効期間、それに特別条項の回数を確認してください。届出はしていても、実際の残業が特別条項の回数を超えていれば違反です。それと、36協定の過半数代表者の選出方法も聞かれます」

経営者「選出方法といいますと」

社労士「会社が指名した方では駄目です。労働者の過半数を代表する者を、民主的な方法で選出した記録が必要です。投票や挙手の記録が残っていますか」

経営者「……総務の課長に頼んでいました」

社労士「それは指摘されます。管理監督者は過半数代表者になれません。次回の協定更新までに手順を整えましょう」

経営者「当日、私は何を話せばいいでしょうか」

社労士「3つだけ守ってください。聞かれたことに答える。分からないことは『確認します』と答える。虚偽の説明をしない。良く見せようとして事実と違う説明をすると、後で辻褄が合わなくなります」

5. 調査当日の5つの原則

  1. 立会いを依頼する——社労士が同席することで、質問の意図を正確に把握でき、後の是正報告も円滑になります

  2. 求められた書類だけを出す——求められていない書類を自発的に出す必要はありません。ただし隠すのは別問題です

  3. 分からないことは答えない——「確認してご報告します」と伝えれば足ります。推測で答えると記録に残ります

  4. その場で約束しない——改善の方法や期限は、持ち帰って検討してから回答します

  5. 指摘内容をメモする——是正勧告書が出るまで時間がかかる場合があります。口頭の指摘も記録してください

6. 是正勧告を受けたらどうするか

期限内の是正報告が最も重要です。

是正勧告書には是正期日が記載されます。期限内に是正し、是正報告書を提出してください。やむを得ず期限内に完了しない場合は、放置せずに事前に相談し、改善計画を示すことが大切です。

大阪労働局の方針では、重大・悪質な事案は厳正に対処し、刑事事件として送検した事案などを積極的に公表するとされています。放置が最も危険な対応です。

よくある質問(FAQ)

Q. 労働基準監督署の調査を断ることはできますか。 A. できません。労働基準法第101条により、労働基準監督官は事業場への臨検、帳簿・書類の提出要求、関係者への尋問を行う権限を有します。拒否・妨害は同法第120条の罰則対象です。

Q. 定期監督と申告監督はどう違いますか。 A. 定期監督は行政の計画に基づくもの、申告監督は労働者からの申告に基づくものです。申告監督では申告者が特定されないよう配慮されますが、調査項目は申告内容に沿ったものになります。

Q. 調査には必ず社労士が同席できますか。 A. 同席できます。ただし労働者本人への尋問には立ち会えない場合があるのと、社労士単独での調査対応は不可です。

Q. 11月は本当に調査が増えるのですか。 A. 厚生労働省は11月を過労死等防止啓発月間とし、長時間労働が行われていると考えられる事業場への重点監督を実施するとしています。長時間労働に心当たりがある企業は、今のうちに点検をお勧めします。

まとめ

2026年に労基署が見ているのは、書類の有無ではなく整合性です。タイムカードと入退館記録、賃金台帳と出勤簿、36協定と実際の残業時間——この突合に耐えられるかが分かれ目になります。そして11月は重点監督の月です。来所通知書が届く前に

①出勤簿の打刻が揃いすぎていないか

②賃金台帳と整合性が合っているか

③管理監督者の勤怠記録があるか

④36協定の過半数代表者の選出記録が残っているか

この4点をご確認ください。調査の連絡を受けた段階でのご相談も承っています。

執筆:社会保険労務士法人WILL 山本達矢

社会保険労務士法人WILL|大阪市阿倍野のあべのルシアスにある社労士法人事務所

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