「お盆休みが明けたら、社員から突然『退職したい』と言われた……」
長期休暇の後には、このような相談が増えることがあります。
特に、まとまった休暇によって社員が仕事や職場について冷静に考える時間を持つと、これまで我慢していた不満が表面化することがあります。
大手退職代行会社の調査によると、長期休み明けが最も依頼件数が多かったという調査結果も出ています。
今回は、なぜ長期休暇明けに退職が起こりやすいのか、経営者や管理職は何に注意すべきなのかを、社会保険労務士の視点から解説します。
お盆休み明けに退職が起こるのはなぜ?
長期休暇明けの退職には、いくつかの典型的な原因があります。
1.仕事から離れて「自分の働き方」を見直す
忙しく働いている間は、「とりあえず今の会社で頑張ろう」と考えていても、休暇中に仕事から離れることで、将来について考える時間が生まれます。
「このまま今の会社で働き続けていいのだろうか」
「もっと待遇の良い会社があるのではないか」
「本当にやりたい仕事は別にあるのではないか」
といった気持ちが強くなり、休暇明けをきっかけに転職を決断するケースがあります。
2.会社の不満を客観的に感じる
毎日職場にいると、不満があってもそれが「当たり前」になってしまいます。
しかし、数日間仕事から離れると、
上司との人間関係
長時間労働
給与や賞与への不満
評価制度への不信感
仕事量の偏り
会社の将来性への不安
などが、あらためて気になることがあります。
つまり、休暇そのものが退職の原因なのではなく、以前から存在していた不満が休暇をきっかけに顕在化することが多いのです。
3.家族や友人との会話がきっかけになる
お盆休みには、実家への帰省や家族との時間が増えます。
そこで、
「その給料なら転職したほうがいいんじゃない?」
「そんなに残業しているの?」
「もっと条件の良い会社はないの?」
などと言われ、転職を考え始めることもあります。
特に最近では、求人情報や転職サイトをスマートフォンですぐに確認できます。休暇中に求人を見て、そのまま応募するというケースも珍しくありません。
経営者と顧問社労士の会話
経営者:
「先生、お盆休み明けに社員から退職の相談が来たんですが、こういうことって多いんですか?」
社労士:
「珍しいことではありません。長期休暇明けは、社員が仕事から一度離れるため、自分の働き方や職場環境を見直しやすい時期です。」
経営者:
「でも、今まで特に不満を言っていた社員ではないんですよ。」
社労士:
「そこが重要なんです。社員が不満を言っていないからといって、不満がないとは限りません。」
経営者:
「どういうことですか?」
社労士:
「退職を決めるまでに、社員の頭の中では『不満→我慢→諦め→転職検討』という段階を踏んでいることがあります。会社側が気づいたときには、すでに意思が固まっていることもあります。」
経営者:
「では、管理職は何を見ておけばいいのでしょうか?」
社労士:
「大切なのは、休暇明けの『変化』を見ることです。」
管理職が注意したい「退職予兆」のサイン
お盆休み明けには、社員の次のような変化に注意しましょう。
1.急に仕事への関心が薄くなった
以前は積極的だった社員が、急に発言しなくなったり、仕事を最低限しかこなさなくなった場合は注意が必要です。
2.有給休暇の取得が増える
有給休暇そのものは当然の権利ですが、急に休みが増えたり、退職前の休暇消化を意識したような取得が見られる場合があります。
3.転職活動を疑わせる行動がある
勤務時間中に求人サイトを頻繁に確認している、資格取得や面接に関する話題が増えるなど、行動の変化が見られることがあります。
4.上司とのコミュニケーションを避ける
以前は普通に相談していた社員が、急に上司との会話を避けるようになった場合も要注意です。
もちろん、こうしたサインがあるからといって必ず退職するわけではありません。大切なのは、「退職するかどうか」を詮索することではなく、社員の変化に気づくことです。
退職を防ぐために経営者・管理職ができること
では、企業は何をすればよいのでしょうか。
まず重要なのは、休暇明けだからこそ、社員とのコミュニケーションを増やすことです。
「休みはどうだった?」
「仕事で困っていることはない?」
「最近、負担になっている仕事はない?」
など、自然な会話から始めてみましょう。
ただし、
「辞めないよね?」
「転職活動してないよね?」
と直接問い詰めるのは逆効果です。
また、管理職だけでなく、定期的な1on1面談や人事面談を実施し、社員が不満や悩みを話しやすい仕組みを作ることも重要です。
「退職防止」だけを目的にしてはいけない
ここで注意したいのは、社員の退職を何としてでも防ごうとしないことです。
退職理由が給与、人間関係、長時間労働、評価制度など、会社側に改善すべき問題があるのであれば、退職を引き止めるだけでは根本的な解決になりません。
むしろ、1人の退職をきっかけに、
「なぜこの社員は辞めたいと思ったのか?」
「同じ不満を抱えている社員はいないか?」
「会社の制度や管理職のマネジメントに問題はないか?」
を見直すことが重要です。
退職者の存在を「困った出来事」と捉えるのではなく、会社の労務管理を改善するためのシグナルとして捉えることが、経営者にとっては大切です。
まとめ|お盆休み明けは「社員の気持ちの変化」に注目
お盆休み明けに退職者が出やすくなる背景には、長期休暇によって社員が仕事や人生について考える時間を持つことがあります。
そのため、経営者や管理職が注意すべきなのは、
「退職者を見つけること」ではなく、「社員の変化に早く気づくこと」
です。
特に、
仕事への意欲が低下した
コミュニケーションが減った
有給休暇の取得が急に増えた
不満や不安を口にするようになった
といった変化があれば、早めに話を聞く機会を設けましょう。
そして、長期休暇明けの時期を、単なる「退職防止」のタイミングではなく、職場環境や労務管理を見直すきっかけとして活用することをおすすめします。
執筆:社会保険労務士法人WILL 山本達矢



