雇用契約書【労使トラブルを未然に防ぐ文言集】を社労士が解説

雇用契約書【労使トラブルを未然に防ぐ文言集】を社労士が解説

法改正情報
社会保険労務士法人WILL 山本達矢更新

労使トラブルの多くは、雇用契約書の一文の書き方で防げます。2026年10月に追加された明示事項を含め、配転・試用期間・固定残業代など7場面の「危ない文言」と「推奨文言」を記載例つきで社労士が解説します。

労使トラブルの火種は、退職の場面ではなく入社時の一文に埋まっています。「勤務地:本社」とだけ書いていたために転勤を拒まれる、「試用期間3か月」としか書かず本採用拒否が争われる——いずれも、契約書の文言を1行足しておけば防げたものです。そして2026年10月1日から、パート・有期雇用労働者への明示事項がさらに1つ増えました。本記事では、トラブルになりやすい7つの場面について、危ない書き方と推奨文言を記載例つきで整理します。

1. なぜ「文言」でトラブルの結果が変わるのか?

書かれていないことは、会社の権利として認められにくいからです。

労働基準法第15条は、労働契約の締結に際し、使用者が労働条件を明示しなければならないと定めています。そして明示した条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。

さらに労働契約法第7条は、就業規則が合理的な労働条件を定め、労働者に周知させていた場合に、その内容が労働契約の内容になると定めています。裏を返せば、契約書にも就業規則にも書いていない権限は、会社にはないということです。配転命令も、試用期間満了時の本採用拒否も、根拠となる文言がなければ出発点に立てません。

2. 2026年10月1日から、明示事項が1つ増えました

パート・有期雇用労働者に「待遇の相違について説明を求めることができる旨」の明示が必要です。

厚生労働省のWebマガジン「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります―3つの改正ポイント」のとおり、パートタイム・有期雇用労働法関係の省令・指針が改正されました。これまでパート・有期雇用労働者には「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4項目の明示が必要でしたが、ここに5つ目が加わった形です。

あわせて、説明の方法も見直されました。待遇の相違等について説明する際は、資料を活用して口頭で説明する方法か、説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付する等の方法のいずれかによることが必要です。

なお、2024年4月から追加された「就業場所・業務の変更の範囲」「更新上限の有無と内容」「無期転換申込機会と無期転換後の労働条件」も引き続き必要です(厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。

3. 【文言集】トラブルを防ぐ7つの記載例

場面危ない文言文言の一例
① 就業場所・業務の変更の範囲勤務地:本社/業務:営業(雇入れ直後)本社/(変更の範囲)会社が定める全ての事業所(在籍出向先を含む)。業務も同様に「会社が定める全ての業務」と記載するか、逆に勤務地や業務を限定するか。定型文言ではなく、その方の採用目的に応じて個々に検討する必要があります。
② 試用期間試用期間:3か月試用期間は3か月とする。会社は、試用期間中または満了時に、勤務成績、勤務態度、健康状態、経歴詐称の有無等により本採用が適当でないと認めたときは、本採用を行わないことがある。なお、会社が必要と認めたときは3か月を限度に延長することがある
③ 固定残業代役職手当:5万円(残業代込み)固定時間外手当として月額5万円を支給する。これは時間外労働◯時間分に相当する。◯時間を超えた時間外労働、休日労働および深夜労働については別途割増賃金を支払う
④ 有期契約の更新更新する場合がある更新の有無:更新する場合がある。更新の判断基準:契約期間満了時の業務量、勤務成績・勤務態度、能力、会社の経営状況、従事している業務の進捗状況による。更新上限:通算契約期間◯年(または更新回数◯回)を上限とする
⑤ 退職の申出退職する場合は申し出ること自己都合により退職する場合は、退職を希望する日の30日前までに書面により届け出るものとする(※民法上は2週間で解約可能なため、努力義務的な位置づけで記載し、懲戒や賃金控除と結びつけない)
⑥ 就業規則との関係(記載なし)本契約に定めのない事項については、就業規則および関係諸規程の定めによる。本契約の内容が就業規則の基準に達しない場合は、就業規則の定めによる
⑦ 待遇差の説明(2026年10月〜)(記載なし)通常の労働者との待遇の相違の内容・理由等について、会社に説明を求めることができます。申出先:◯◯部/担当者:◯◯/連絡先:◯◯

とくに③は注意が必要です。最高裁は、固定残業代が有効となるには通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できることが必要であるとしています(日本ケミカル事件・最一小判平成30年7月19日)。「残業代込み」とだけ書かれた手当は、残業代の支払いとして認められません。

4. 社労士と経営者の会話

経営者「来月から新しい営業所を出すので、本社の社員を2人異動させます。本人たちが渋っているのですが、業務命令ですから従ってもらえますよね」

社労士「契約書の勤務地欄は、どう書かれていますか」

経営者「『勤務地:本社』です。就業規則には配転条項を入れてあります」

社労士「就業規則に根拠があるのは良いのですが、契約書で勤務地を本社に限定したと読まれるおそれがあります。2024年4月からは『変更の範囲』の明示が義務ですから、本来はそこに『会社が定める全ての事業所』と書いておく必要がありました」

経営者「書いていないと、異動させられないのですか」

社労士「争いになれば、会社に不利な材料になります。ただ、今回の2名については、個別に同意を得て覚書を交わす方法があります。今からでも、次の契約更新や人事異動のタイミングで全員分の文言を整えておくのが現実的です」

経営者「分かりました。ついでに聞きたいのですが、パートさんの契約書も直す必要があると聞きました」

社労士「はい。2026年10月1日から、パート・有期の方には『正社員との待遇の相違について説明を求めることができる』旨の明示が必要になりました。相談窓口と同じ欄に1行足すだけですが、入っていなければ明示義務違反です」

経営者「書くと、かえって説明を求められそうで気が進みませんね」

社労士「お気持ちは分かりますが、求められたときに説明する義務は以前からあります。今回増えたのは『求められる』という事実を伝える義務です。それに、説明を求めたことを理由に不利益な取扱いをすることは禁止されています。書かないことで防げるものではありません」

経営者「むしろ、説明できる状態にしておくほうが先だと」

社労士「そのとおりです。賞与や手当の差について『正社員だから』という理由しか用意できていないのであれば、そちらを整理するのが本筋です」

5. 文言より大切な「交付」と「保存」

契約書は、交付して初めて意味を持ちます。

実務でよく見るのが、契約書は作ったものの会社に2部とも残っている、更新時は口頭だけで済ませている、というケースです。有期契約は更新のたびに明示が必要ですので、更新時の交付漏れは明示義務違反になります。

2019年4月からは、労働者が希望した場合に限り、電子メールやSNS等の電子的方法による明示も認められています(労働基準法施行規則第5条第4項)。書面の印刷・押印・郵送が負担になっている場合は、電子化の検討も有効です。私たちが社労士の実務から設計したクラウド雇用契約システムが、e-mu(エミュー)です。本記事で取り上げた論点と、次のように対応しています。

本記事の論点e-muでの対応
2026年10月の新明示事項最新の明示事項に対応した様式で作成。法改正時は様式側が更新されるため、ひな形の直し漏れが起きません
就業規則との整合AI労務サポートが、就業規則と雇用契約書の差分をチェック。記載の食い違いを事前に発見できます
更新上限・無期転換の明示(通算5年の無期転換アラート機能により、申込権が発生するタイミングを自動で把握できます
交付と保存電子的方法による明示に対応。締結状況と交付履歴が一覧で残るため、「2部とも会社にある」状態が起きません

労務相談に使えるAI機能を含め、全30機能を搭載しています。社労士事務所様や企業様にて導入されています。

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よくある質問(FAQ)

Q. 労働条件通知書と雇用契約書は、どちらが必要ですか。 A. 法律上必要なのは「労働条件通知書」です。ただし実務では、双方が署名・押印する雇用契約書の形にしておくほうが、合意の存在を証明しやすくなります。従って労働条件通知書兼雇用契約書と兼ねるケースも多いです。

Q. 明示事項に漏れがあった場合、罰則はありますか。 A. 労働基準法第15条違反は30万円以下の罰金の対象です。また、パート・有期雇用労働法に基づく明示事項の違反は10万円以下の過料の対象となり得ます。

Q. 既存社員の契約書も作り直す必要がありますか。 A. 2024年4月・2026年10月の改正はいずれも、改正日以降に締結・更新する契約が対象です。既存契約の巻き直し義務はありませんが、配転や更新上限をめぐるリスクを考えると、更新や異動の機会に順次整えることをおすすめします。

Q. 変更の範囲を広く書いておけば、どんな配転も可能ですか。 A. いいえ。文言は出発点にすぎず、配転命令権の濫用に当たる場合(業務上の必要性がない、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある等)は無効と判断されます。

まとめ

雇用契約書は、トラブルが起きてから読み返す書類ではなく、トラブルを起こさないために書く書類です。①変更の範囲、②試用期間、③固定残業代、④更新基準と上限、⑤退職の申出、⑥就業規則との関係、⑦待遇差説明の申出先——この7か所を、今のひな形で確認してみてください。1行の追記で済むものがほとんどです。自社の様式が最新の明示事項を満たしているかご不安な場合は、社会保険労務士にご相談ください。

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