人手不足倒産がこれからもっと深刻になる理由。採用と定着のポイントを社労士が解説

人手不足倒産がこれからもっと深刻になる理由。採用と定着のポイントを社労士が解説

労務
社会保険労務士法人WILL 山本達矢更新

人手不足倒産の原因は「採れない」から「払えない」へ変わりました。2026年度上半期は240件で過去最多、うち人件費高騰が1.7倍。最低賃金1,177円時代の採用と定着のポイントを社労士が解説します。

人手不足倒産が過去最多を更新しました。しかし注目すべきは件数ではなく、倒産の引き金が「人が採れない」から「人件費を払えない」へ移ったという変化です。2026年度上半期の人手不足倒産240件のうち、人件費高騰が原因のものは130件で前年同期の1.7倍。そして10月から最低賃金はさらに上がります。結論から言えば、賃上げの体力勝負に乗り続ける限り、中小企業は構造的に不利です。今回は、採用と定着という2つの切り口から、賃上げ以外に打てる手を解説します。

1. 人手不足倒産は、いま何件起きているのか?

2026年度上半期で240件。2013年の調査開始以降、年度上半期では過去最多です。

東京商工リサーチの調査(2026年度上半期の「人手不足」倒産 過去最多の240件)によれば、2026年度上半期(4月〜9月)の人手不足倒産は240件で、前年同期の205件から17.0%増加しました。

指標2026年度上半期前年同期比
人手不足倒産(全体)240件+17.0%
うち「人件費高騰」が原因130件(構成比54.1%)+75.6%(1.7倍)
資本金1千万円未満159件(構成比66.2%)+33.6%
破産229件(構成比95.4%)+23.7%

産業別では、サービス業他が91件(前年同期比+21.3%)、建設業が55件(同+5.7%)で、この2産業で146件、全体の60.8%を占めます。

2. なぜ「これからもっと深刻になる」と言えるのか?

原因の構成が変わり、しかもコスト要因は今後も上がり続けるからです。

従来の人手不足倒産は「求人を出しても応募が来ない」という求人難型が中心でした。ところが2026年度上半期は、人件費高騰が原因のものが全体の半分を超え、前年同期比1.7倍のペースで増えています。同調査も、物価高と人件費上昇のなかで**「賃上げ疲れ」が顕在化している**と指摘しています。

ここに追い打ちをかけるのが最低賃金です。厚生労働省の発表(全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました)によれば、令和8年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,177円。前年度の1,121円から56円の引上げで、引上げ額は54円〜65円、発効日は10月1日から12月2日にかけて順次となります。

求人難は採用方法の工夫で部分的に解消できますが、最低賃金は制度として上がります。努力で回避できないコストが毎年積み上がるという点が、「これからもっと深刻になる」と言える理由です。

そして最も重いのは、ここに離職が重なることです。賃上げで人件費が上がった直後に人が辞めれば、採用コストと教育コストを払い直したうえで、上がった水準で採り直すことになります。

3. 社労士と経営者の会話

経営者「10月から最低賃金が上がるので、パートの時給を全員一律で上げました。これで募集をかければ人は来ますよね」

社労士「一律で上げられたのは、法令対応としては正しい判断です。ただ、確認させてください。正社員の初任給と、主力のパートさんの時給を月額換算した額は、いまどれくらい離れていますか」

経営者「……言われてみると、ほとんど差がないかもしれません」

社労士「そこが次のトラブルの芽です。最低賃金はパートの時給を押し上げますが、正社員の給与は自動では上がりません。放置すると責任の重い正社員のほうが割に合わないという状態になり、辞めていくのは正社員からです」

経営者「では正社員も上げないといけませんか。それでは体力が持ちません」

社労士「全員を上げる必要はありません。賃上げの原資を、辞められたら最も困る層に集中させるという考え方です。全員一律の賃上げは、最も金額がかかるのに、定着への効果が最も薄い使い方です」

経営者「集中させるというのは、具体的には」

社労士「たとえば現場をまとめている方に役職手当を新設する、資格保有者に資格手当を付ける。誰に何を払っているかが説明できる形にすることです。これは2026年10月の同一労働同一賃金の改正で、待遇差の説明を求められる場面が増えることへの備えにもなります」

経営者「お金以外で、できることはありますか」

社労士「あります。離職理由の上位は、収入だけではないんです。労働時間や休日の条件、それに職場の人間関係が必ず上がってきます。シフトの決め方を変える、休みの希望を出せる仕組みを作る——これは原資がほとんどかかりません」

経営者「採用のほうは、どう考えればいいでしょう」

社労士「求人票に書いた条件と、入社時の雇用契約書に書いた条件が食い違っていないかを、まず確認してください。入社3か月以内に辞める方の原因は、採用方法ではなく条件の説明不足であることが非常に多いです。採用コストを増やす前に、ここを潰すほうが確実に効きます」

4. 採用のポイント——「母集団」より「食い違いの排除」

求人票・面接・雇用契約書の3点で条件が一致しているかを確認してください。

  1. 求人票と雇用契約書の整合——求人票の「月給◯万円」に固定残業代が含まれているなら、その旨と相当時間数を求人段階で明示します。入社後に判明すると、早期離職と未払い賃金請求の両方のリスクになります

  2. 就業場所・業務の変更の範囲——2024年4月から明示義務の対象です。「転勤なし」と口頭で説明して契約書に広い範囲を書く、またはその逆は、いずれも後の紛争要因です

  3. シフト・所定労働日数の明示——パート・有期の方の早期離職で最も多い食い違いがここです。「週3日程度」といった曖昧な記載は避けます

5. 定着のポイント——離職率の高い業種こそ「お金以外」が効く

厚生労働省の調査では、離職理由の上位に労働条件と人間関係が並びます。

令和7年雇用動向調査によれば、令和7年の離職率は全体で13.7%ですが、産業別では大きく差があります。

産業離職率(令和7年)
宿泊業、飲食サービス業23.7%
生活関連サービス業、娯楽業20.1%
医療、福祉14.3%
建設業8.7%

転職入職者が前職を辞めた理由(個人的理由)を見ると、男性は「給料等収入が少なかった」9.9%、「職場の人間関係」8.9%、女性は「労働時間・休日等の労働条件」12.9%、「職場の人間関係」11.5%が上位に並びます。

つまり、辞める理由の半分以上はお金以外です。具体的な打ち手としては、次の3つが原資をかけずに着手できます。

  • シフト希望の提出ルールを作る——締切と確定日を決め、口頭依頼をやめる

  • 1対1の面談を定例化する——評価面談ではなく、不満を小さいうちに拾う場として

  • 管理職への教育——人間関係を理由とする離職は、現場管理者の言動が起点になることが多いためです

よくある質問(FAQ)

Q. 人手不足倒産とは、どのような倒産を指しますか。 A. 東京商工リサーチの調査では、求人難、従業員退職、人件費高騰のいずれかを原因とする倒産を人手不足倒産として集計しています。2026年度上半期は人件費高騰が原因の割合が最も高くなりました。

Q. 最低賃金を下回っていた場合、どうなりますか。 A. 最低賃金法第4条違反となり、50万円以下の罰金の対象です。差額の支払いも必要になります。発効日が都道府県ごとに異なるため、自社の所在地の発効日を必ず確認してください。

Q. 賃上げの余力がない場合、何から手を付けるべきですか。 A. まず最低賃金への対応(法令遵守)、次に正社員とパートの賃金バランスの確認、そのうえで原資のかからない労働条件の改善です。一律賃上げは最後に検討する選択肢と考えてください。

Q. 助成金で賃上げの負担を軽減できますか。 A. キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースなど、賃上げに対応した助成金はあります。ただし助成金は一度きりで、上がった人件費は継続します。恒常コストで判断してください。

まとめ

人手不足倒産の原因は、「採れない」から「払えない」へ移りました。最低賃金は制度として上がり続けますので、賃上げの体力勝負では中小企業に勝ち目がありません。打つべき手は、①求人票・雇用契約書の食い違いをなくして早期離職を防ぐ、②賃上げの原資を辞められたら困る層に集中させる、③原資のかからない労働条件を整える——この3つです。自社の賃金バランスや労働条件の見直しについては、社会保険労務士にご相談ください。

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